名付けて「お薬王子」
声のいい人、声を聞くとホッとする人っている。
その時々で惹かれる人は違うし、男女差もないけれど、声の魅力というものは一生ものだなぁと思う。声のいい人って得だ。ただしゃべってるだけでも聞いている私は心身ともに緩む。すごい魔力だ。
ここ数年のホッとする声の一番は森 大輔さん。
FM cocoloで「Night Aquarium」という番組をしている。
おしゃべりがさわやか。口調も小気味よい。ちょっと理屈っぽいところがその声で中和されている。声は甘いと思う。
ラジオを聞きはじめてファンになり、ちょうど4枚目のアルバムを出したところだったからそれを買い、すっかり魅了された。
さかのぼるように順にアルバムを買い足して、でも1枚目の『OPUS ONE』だけが2005年の発売だからか見つからず、最近になってようやく入手した。
そうしたらこの最初のアルバムが一番好きになった。
そのころ23歳だったそうだけど、はじめて出すアルバムにも関わらずその完成度の高さについては話題になったようだ。
音楽にはまったく詳しくないけど、聴いていてこのピアノは心地いいとかよくないとかあると思う。
森くんのピアノは好き嫌いではなくてただひたすらホッとする。
人の歌声ばかり聴くのが苦手な私でも、森くんの声にはホッとする。
明るい曲でも明る過ぎない。といって暗いわけではない。
コーラスも森くん自身がしているので、乱されない。
あちこち跳ねるようなにぎやかさはないが、そのぶん調和を感じる。
ちょうど体調がよくない頃だったので私の薬になってくれた。
名付けて「お薬王子」だ。
でもこのあいだ薬が効き過ぎた。
どんどん深く、深く、潜っていくようだった。
森くんだけに森の中にいるようだった。空想の中の森。暗い、見通せない場所。しんとして、動かない空気。木々から降り注ぐ精気にまとわれる感じ。
手探りで進もうとしている。進めなくてうずくまる。膝をかかえ、座り込む。うつむいて、じっとしている。息がだんだんと遅くなる。身体の動きも鈍くなる。
もう動きたくないような、懐かしいような、目をつむっていても安心なような。
なにかに捉われてしまったような感覚。
ひとつの曲でこんなふうになるのは、それこそ思春期のころ以来ではなかろうか。
もう帰ってこれないかと思った。知らず涙も出てきた。あぶなかった。
薬の効き過ぎにはご用心、だ。
効き過ぎた薬:
「Misty Girl」作詞作曲:森 大輔
『OPUS ONE』より