あのころの自分と
2012年に亡くなったニュージーランドの児童文学作家マーガレット・マーヒー。
学生時代、授業で毎週読書レポートを提出する課題がありました。厳しい英米児童文学専門の教授に唯一そのレポートを褒められたのが、マーヒーの『足音がやってくる』でした。
私にはマーヒーは、『足音がやってくる』と『めざめれば魔女』です。(この2冊より『魔法使いのチョコレートケーキ』がよく知られている作家ですね)
常人とは違う力を描き、不思議で、怖くて、不気味で、暗くて、でも力強い。
あらすじはほぼ忘れていますが、強い影響を与えた本で、その感覚は忘れていません。
児童文学は、つきつめればほとんどが「主人公の成長物語」だと思っています。
主人公が思いがけないことから冒険に出て困難に遭い、それでも挑戦していく。引っ込み思案だった子がその冒険を通して自分の力で自分の道を切り開いていく。ひとりで、または仲間たちと、誰かの助けを借りたりしながら乗り越えていく。
時間は止めることができない。主人公の時間も止められない。否応なしに大人にならなくてはいけない。広い世の中に自分の力で出ていかなければならない。
高校を卒業してもまだモラトリアムだった私には、児童文学を読むことは、いずれは見たことのない世界に行かねばならないんだ、ということを知りつつ、でもいまだ怯えながら、そろそろとその準備をするための震えるような時間でした。
児童文学には古典、名作といわれるものがたくさんあります。それらはいまだに名作で、あまり入れ替わっていない、という印象です。古典は消えずに今でも読むことができて、しかも面白さもそのままです。
くまのプーさん、不思議の国のアリス、ナルニア国物語、床下の小人たち、モモ、はてしない物語…数え上げられないくらいたくさんあり、それらは宝物です。
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いつのまにやら、みずみずしい感性は身の内へと深く潜り、「あのころのように読む」ということは難しくなりました。
けれど今また読めば、あのころの感受性はもうないのだけれど、人生への切ないような心持ちや、知らない世界への畏れや不安を抱えて縮こまっていた自分に会える。それなら本の世界と一緒に、そのころの自分ごと抱きかかえて、そっと大切にしてあげたいなぁという気持ちになるのです。
う〜ん、マーヒー楽しみ!